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活動実績

ついんくる★★講座2016 第1回特別講演 テーマ:今、あらためて確認しよう!ノーマライゼーションとは何か 共に生きる社会とよりよき支援システム実現に向けた基本視点

相模原市の障害者殺傷事件。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りし、負傷された方々に心よりお見舞い申し上げます。
容疑者は「障害者なんていなくなればいい」という趣旨の供述をしていると伝えられています。
これは、障害者を「あってはならない存在」とする優生思想に基づく行為です。
最近では、マイノリティーに対するヘイトスピーチやヘイトクライムが平然と行われるような社会状況があり、障害者に対する差別意識があることに、私たちは心を痛めています。

この事件が起こる数日前の7月23日、私たちは「ノーマライゼーション」の思想を改めて紐解き、私たちの社会が進むべき方向について学ぶ学習会を行いました。

今回の学習会で学んだことは
「障害があっても一人の人間として、常にリスペクトされながら生きる権利がある。」ということ。

今回の事件で、マスコミはそのまま犯人の言葉や、過去に行われた優生思想に基づくナチスの政策を、当事者への配慮なく報道してしまっています。私たちは、そういった思想が社会の中に無意識に刷り込まれていくことを危惧しています。
そういった状況の中、私たちは今回の事件を踏まえて、このノーマライゼーションの哲学をもっと社会の中に広くそして深く、伝えていく責任があるということを感じています。

以下は
【ついんくる★★講座2016①】レポートです。

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全8回講座のトップバッターは、日本女子大学教授 久田則夫先生の特別講演。
テーマ: 今、あらためて確認しよう!ノーマライゼーションとは何か
共に生きる社会とよりよき支援システム実現に向けた基本視点

久田先生は講義の冒頭から、
「ノーマライゼーションは語るものではない。行動をおこして、実現するものである。」今日学んだことを、知り合いや職場の人にぜひ伝えてほしいと述べられました。

①まずは、「ノーマライゼーション」の誕生から。
1850年代末、デンマークで障害者親の会が、知的障害者の大規模収容型施設を見学しました。
その大規模収容型施設では、
地理的な隔離・地域社会で育んだ生活様式や行動パターンの剥奪・地域社会との接点の剥奪・一般社会で当たり前とされる役割の剥奪・ワンパターンの生活の強要・職員による支配など、一人ひとりの個性が否定されていました。(ゴッフマンが発した警告)

その時にデンマーク社会省行政官として働いていた、バンク・ミケルセンは、隔離された悲惨な生活実態にあることを知り、心を痛めました。
「知的障害者のために、可能な限り、正常な生活条件に基づいた生活を創造する」と提唱し、知的障害者の自由を奪ってきた誤解、間違った制度、保護主義の撤廃を目指し
“プラスの視点”で見ることの大切さを訴えました。

②ミケルセンの考えに賛同したのが、スウェーデン知的障害児連盟のベンクト・ニーリエでした。
ニーリエは、1969年 論文「ノーマライゼーション原則の人間的施設管理への応用」を発表し、「ノーマライゼーションの8原則」として整理されました。

③1972年、ウルフ・ヴォルフェンスベルガ―は
「ノーマリゼーション:社会福祉サービスの本質」を刊行し、理論化しました。
障害者のためだけに作られた特別の設備(病院・施設・体育館・プールなど)を利用するのではなく、一般市民が利用できる設備を障害者も利用できるようにする。
隔離的な入所型施設ではなく、地域社会のふつうの住宅で暮らせるようにすることです。
日本語で言えば「共に生きる」という発想。

そして80年代に入ると、
「ソーシャル・ロール・ヴァロライゼーション」という、障害のある人が「当たり前の社会的役割」を担えるような社会システムの確立を目指す用語が発表されました。

ヴォルフェンスベルガ―は
・サービス提供の場を適切なところに設定する
・同質集団だけを対象としたサービス提供ではなく、誰もが当たり前に使っている
サービスを当たり前に使えるようにする
(これがユニバーサルデザインの考え方に大きな影響を与えました。)
・意義ある、生きがい、遣り甲斐のある活動をエンジョイできるようにする
・ポジティブなイメージをもつ呼称を採用する
・その人にふさわしい身だしなみ(外見)をコーディネート
・体験の増加による適応力(総合的生活能力))の向上
を訴えました。

久田先生は最後に8つの保証されるべき権利について、時間をかけて解説されました。
・地域社会の中で自立した生活を送る権利
・安心と信頼、さらにはニーズに細かく対応した「質の高いサービス」を受ける権利
・知る権利
・必要なサービスを適切な支援を受けながら選ぶ権利
・意見、要望、苦情を述べる権利と適切かつ速やかに対応してもらう権利
・すでに有する力を維持し、潜在能力の開発に必要な支援を受ける権利
・プライバシー権
・プライドをもって生きていく権利(リスペクトされていると実感しながら生きる権利)

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今回の学習会は、関係者を含め約100名の方にご参加いただきました。
そのうち、教育・療育・福祉関係等、専門職や支援者が7割。
久田先生は、「経験則でなく、自分のキャリアに責任を持つこと。プロとしての学びに終わりはない。常に学び続け、専門性を極めていくことが大事だ。」と話されていました。

私たちが今回のテーマであるノーマライゼーションについて、改めて学びたいと考えたのは、今年4月に施行されました障害者差別解消法がきっかけです。
ここ久留米市でも、差別のない誰もが安心して暮らせる地域社会をめざして、ノーマライゼーション条例の策定が待ち望まれます。

久田先生は講義の中で、「もし久留米市でノーマライゼーション条例をつくるのであれば、どんな権利を保障するのか、条例に盛り込んでみませんか」と提案されました。

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冒頭に書いていましたように、障害者の生命や尊厳が極めて危うい社会状況になりつつあります。改めて社会のあるべき姿、ノーマライゼーションの哲学を、社会の中に具体的に広めていくことが大切であると感じました。
障害のある人が排除されることなく、安心して暮らせる地域社会になることを、心から願わずにはいられません。
文責:松尾和弥